キャロライン・ポラチェックにとって、音楽は「この本当に豊かな関係を共有することができる空気の振動」です。シンセサイザーバンドの“Chairlift”から華々しいソロキャリアまで、彼女の型破りなアヴァン・ポップは、常にメロディと同じくらいサウンドとテクスチャーを追求してきた結果です。今年、キャロラインはさらなる飛躍を遂げ、その記念にMarantz Amplified Playlistを作成し、彼女の音楽的インスピレーションの奥深くへと私たちを誘ってくれます。文:ピオトル・オルロフ
「その内部と外部の構造の精度と堅牢性は、ひと目見れば明らかです。それこそが、所有者に最高の信頼性を保証するクオリティです。Model 9アンプを2台使用すれば、至高のステレオパフォーマンスを堪能することができます」。
キャロラインのキャリアは、シンセサイザーを多用したインディロックデュオ“Chairlift”で曲を書き、歌うことから始まり、ビヨンセなどの大物歌手や、Blood Orange、Charlie XCX、PC Musicレーベルといった型破りなミュージシャン / プロデューサーとのコラボレーションによって一段と勢いを増しました。その一方で、ラモナ・リサやCEP名義でのレコーディングでは、エレクトロニック・アンビエント・ミュージックやミニマリスト・リズムへの方向転換も披露してみせました。このように、ポラチェックのアートとポップの側面は、絶えず対話を続けています。アルバム"Pang"では、この2つの要素が見事に融合し、ポラチェックはコーチェラ・フェスティバルやグラストンベリー・フェスティバルへの出演を含む長期のツアーの中で、この2つを一緒に探求しようと考えていました。
しかし、パンデミックの影響で、それは現実とはなりませんでした。それでも、外出を禁じられた人々が自宅で音楽を聴くようになったことで、ポラチェックとPangはさらに多くのファンを獲得しました。「2020年には、私が想像していたよりもずっと多くの人がこのレコードに触れてくれました」と彼女は驚きを隠さずに語ってくれました。2021年の夏にツアーが再開されると、チケットは即ソールドアウト。本番を待ちきれなかった彼女は、完売を記念して新曲をリリースしてしまうほど意欲に満ちていました。
"Bunny Is a Rider"は、ロックダウンの直前までに制作パートナーのダニー・L・ハールと完成させていましたが、その後の一人の時間になると、細切れのベースラインを持つ「手に入らないものをテーマにしたサマージャム」は、神経に障るものに感じられました。年末には、Pitchfork のライターがこの曲(彼女曰く「サイケデリックでセクシーなナンセンスの一片」)をソング・オブ・ザ・イヤーに選出しました。
しかし、この「セクシー・ナンセンス」は、必ずしもポラチェックの多彩なリスニング・テイストの中心にあるわけではありません。「私は神秘的で、時代やスタイルにとらわれないものを心から愛しています。」と述べたキャロラインは、最後にある音楽に本当に驚かされたときのことについて次のように語ってくれました。「ヴァレンティン・シルヴェストロフという、私が心の底から尊敬する作曲家の曲を聴いていました。彼のピアノと声楽の作品が大好きなんですが、あまり知られていない作品も聴きたいと思って、昨日は、2007年の“Sacred Works”という合唱アルバムをチェックしていました。「Liturgical Chants: 1 Litany」という曲で始まりますが、この曲は本当に素晴らしい曲です。明らかに古楽の形式を踏襲しているのですが、80年代に書かれたようでもあり、また現在、あるいは未来に書かれたのかもしれないような、実にモダンなコードチェンジが行われているのです。
ポラチェックは、90年代のコネチカット州郊外で育ち、音楽が大好きな子供でした。「私が音楽を聴くようになったのは9歳か10歳の頃、カセットレコーダーを手に入れたときからです。ラジオ放送からお気に入りの曲を録音するのですが、当時はそれが少しいけないことのように感じられました。自分の好きな曲が流れるのを待ち、録音する―エアチェックという失敗できない状況はとても楽しいものでした。」ナップスターが登場した頃には、「他では絶対に手に入らないような音楽を聴けることに興奮」し、一方で、中古CDをネットで購入して「週に5~10枚、1枚1ドルで、ただ音楽をむさぼるように聴いていました。私にとって、それはパラダイスでした。」
// 私は神秘的で、時代やスタイルにとらわれないものを心から愛しています。//- キャロライン・ポラチェック
この音楽の消費は、彼女がコロラド大学のラジオ局でDJをしていたときにピークに達しました。そして皮肉なことに、“Chairlift”というバンドの活動を始めたことが、子供の頃からの音楽を聴く習慣を大きく変えることになったのです。「作曲を始めたら、たくさんの多くの音楽を聴く能力が低下したように感じました」とキャロラインは笑いました。「自分で作ったものを聴く方に能力が移ったようです。」
現在、スケジュールが彼女の足かせになっています。「私は、生活のあらゆることがゆっくりなので、コーヒーを飲みながら座って、レコードを最初から最後まで聴ける時間を確保できるような人間だったらよかったのにと思います。」しかし、音楽を聴くことは彼女の創作にとって依然として重要な意味があります。「レコーディングスタジオ、特に自分のものではないスタジオに行ったときにやる好きなことの1つが、[その空間]に慣れるために、しばらくスピーカーで音楽を聴くことです。多くの場合、それは、その日がどんな1日になるか、どんなアイデアが私を興奮させてくれるかについて極めて重要な意味を持つんです。」
そして2022年には、時代精神が引き起こしたレコーディングへの欲求を解消することは、膨大な人数になったファンの前で演奏すること(パンデミックの間に新たに登場したスターの1人であるデュア・リパとのツアーから始まるスケジュールを含め)と矛盾することになりました。そして、ツアーでレコーディングがコマ切れにならざるを得ない状況が、創作し、聴き込むための新しい方法を生み出しました。「新しい曲を少しずつ作ることはできていました。」と彼女は打ち明けてくれました。「数週間をかけてアルバムを制作することはありましたが、ライブで演奏しながら、こんなに短い期間でレコードを作ったことは一度もありませんでした。」
しかし変わらないのは、彼女のサウンドへの愛とサウンドがもたらす効果への敬意です。「今私は、空間的に配置された実態感を持つサウンドのアイデアで頭がいっぱいになっています。ある種のウォームな響きがありながらも、小さく、具体的で、触れることができるものです」。
彼女は、音楽を「私たちが本当に豊かな関係を共有することができる空気の振動」と詩的に表現しました。「私たちがまったく注意を払わなくても、それは社会のあり方や私たちの感じ方、考えを完全に変えてしまう可能性があります。しかし、それに注意を向けることを選択した場合には、深く、深く、深く、さらに深い領域へと至ることができます。それこそが他のどの芸術様式とも本質的に異なる点だと思います」。
// 昔はラジオ放送からお気に入りの曲を録音していました。それがいけないことのような気が少ししたけれど、とてもワクワクしました。//- キャロライン・ポラチェック
アレンジや彼女の歌声が素晴らしいのは言うまでもありませんが、ただただインクレディブルな作品です。でも、私にとってこの曲は、ある種のエモーショナルな"オデッセイソング"の典型なんです。私がこれまで作ったすべてのアルバムにも、このような曲を収録しています。それは、展開し、進化し、クライマックスのようなエンディングへと向かっていくものです。物語性があり、サイケデリックで、どこまでも広がっていくような感覚を得られるもの。私にとっての「Les Fleurs」は、象徴的なオデッセイソングです。
このレコードには、バグパイプ、ブルガリアの聖歌隊、巨大なスタジアム・タムタムなど、さまざまな種類の楽器が使われています。“The Sensual World”というナンバーは、私にとってこのアルバムのピークのようなもので、ケイトはこの曲の感情を表現するためにすべての要素のバランスさせています。それは、受け入れて「イエス」と言うこと、恋に流されること、そしてある人との関係を風にさらされる内面的な描写で表現したものですが、同時に、それは人生についての物語のようにも感じられます。叙情的で、とてもピュアな曲です。」
驚くべき重層的な音楽作品です。非常にディープな低音の上に幾重にもボイスが乗せられていて、すべてが歌詞を明確に伝えてくれます。彼のストーリーテリングは、片思いやデート、共有する瞬間などの小さなモンタージュで、とても特別で、とてもパーソナルで繊細です。それでいて、音楽はとても重厚です。私は、親密さと壮大さの間のこのような緊張感が好きです。
この10年間にリリースされた曲の中でも私の大のお気に入りの1曲です。ジーズ・ニュー・ピューリタンズは、英国出身のデュオで非常に思い切ったことをします。“Beyond Black Suns”では、私が尊敬する中国のボーカリスト、Scintiiと共演しています。そして、彼女のボーカルの重厚さと優美さとの関係は、私が自分の作品で常に目指してきたのと同じような色彩のように感じられ、彼らはこの曲でそれを完全にマスターしたのです。この曲を聴いていると引き込まれていくように、まぶたが重くなってくるのを感じるでしょう。それは崇高な瞬間です。
技術的なレベルでは、これが最近聞いた中でミキシングと録音が最高の1曲です。完璧な陶酔を感じられる曲です。アレンジはとてもシンプルですが、非常に温かみがあり、繊細で、ソウルフルで、緻密です。彼女の音楽には敬服の念を覚えます。彼女はモデルとしても活動していて、去年はファッションというまったく違う世界に飛び込んで行ってしまいました。でも、私は彼女がこっそりとアルバムを作っていることを願っています。だって彼女はカメラの前だけでなく、マイクの前でも素晴らしいから。
昔から好きな曲の1つで、涙せずには聴けない曲です。歌詞は、子供の頃の自分を断片的に描写しながら振り返っているのか、あるいは違う子供の中に自分を見ているのか。はっきりとは分かりません。スコットはメロディのさまざまな部分で音階を上下させ、「ガラス越しに見ているような」質感を与えています。彼のすべての作品において、弦のアレンジは信じられないほど素晴らしく、象徴的です。そして、彼が本当に得意とするストーリーテリングとシネマティックな表現については常に一貫しています。この作品では、ただ純粋なフィーリングに身を委ねているようです。
// ライブで演奏しながら、こんなに短い期間でレコードを作ったことは一度もありませんでした。自分の行いに関する考え方は確実に変わりました。//- キャロライン・ポラチェック
スターの座に駆け上がったシンガーソングライターが、重要な影響を受けた作品をニュアンス豊かに紹介します。
冒頭のポートレート写真:カロリス・カミンスカス。その他の全写真:ネダ・アスファリ。